
最後の清流といわれる川は、いったいいくつあるのか知らないが、これもそのひとつだった。しかし、それも今はもう昔の話。ダムの準備工事やダンプ道敷設工 事の影響がもう現れているらしい。五月の上旬だというのに、やってきた梅雨の走り。その増水の影響で少し笹濁りになっているのかと思っていたが、実はこれ が川辺川の色だと後で地元パドラーに教わった。哀れ、川辺川。球磨川の水質も、さらに悪くなっていく。二股の瀬では、豪快な沈で、いやというほど水を飲ん だが、そんなことができるのも今だけかも知れない。(もちろん、私は熊本県知事に、漁業権収容を拒否するようメールを出している。みなさんもお力添えのほ ど、ヨロシク。) 写真は、川辺川と球磨川の合流部で、その水質の違いに唖然とする作者。もちろん手前のグリーンが川辺川、奥の灰色が球磨川だ。

DATE | 天候 | 区間 |
2002/5/17 | 曇り、夜小雨 | 廻-廻下 |
2002/5/18 | 曇り、時々晴れ | 廻下-中河原公園 |
2002/5/19 | 晴れ | 中河原公園-球仙洞上 |
2002/5/20 | 晴れ | 球仙洞上-神瀬小学校 |
水質(川辺川) | ★★★- | 無念。日本一の清流は、もう、ありませんでした。 |
水質(球磨川) | ★★ | 合流から離れるほどに、少しはましになってくる。 |
水量 | ★★★+ | 前々日まで梅雨の走りの雨、80~50センチの増水中。 |

今回の伴侶は、ひさびさにジョン・ダニングの新作だ。「深夜特別放送」。(それが、かってのオデッセイアと同じ道を辿ることになろうとは、思ってもいなかった。) 飛行機は、一路熊本へと飛び立った。黄色いヘルメットと赤いライジャケを着込み本を読む異様ないでたちの客を載せて。
何故、この五月晴れが当たり前の五月の上旬に、雨模様なのか。その謎は解けない。いつものことである。二日前に熊本県内で大雨が降った模様。先のことは考えるまい。作中、主人公も雨の中を歩いているではないか。いつものことである。
10時45分、オンタイムで飛行機は到着。例によって、早速レンタカーの貸し出し手続きをする。駐車場までは送迎のバンで移動とのこと。勇躍そのク ルマに乗り込もうとしたところ思いっきりドアの入り口に頭をぶつけた。が、大丈夫。そう、私はヘルメットを被っていたのである。いやいや備えというのは大 切なものである。日本三大急流・球磨川。ヘルメットはお忘れないように。
九州自動車を南下。ガラガラの高速道路だ。しかもそのトンネルの数といったら、ただもんじゃない。関越道のトンネルが可愛く思えるほどだ。とりあえ ず道路行政の話は置くとして。というのは、その道を使っている人間が言うのも、ちょっとヘンなので。(ただ、この道が必要だったかどうかは過去のこととし て、未来にこのような道をつくるべきかどうかは、明らかだろう。ねぇ、古賀某さん。婉曲表現が分からない方もいらっしゃるので、ハッキリ言いましょう。 「要りません」と。)
実は、私は、かって学生時代に自動車で九州を一周した際にこの辺を通ったことがある。まだ、八代までしか高速が通っていなかった頃だ。たしかに、山 越えの地道しかなかったが、それだって照明こそないものの、十分にきれいな道だった。真夜中の峠越えの途中、クルマを停めて、夜空を見上げてみた。いまま でに見たこともない、美しい億兆個の銀河が広がっていた。いまもあの記憶は残っている。(ちなみにその道は、いまも現役だ。二日後にテントを張った河原の はるか上を走っている道路がそれ。深夜トラックが次々と走っていく。高い高速道路なんか乗ってはいられない現実がそこにある。)
さてそれはそれとして、一時間強で人吉インターへと到着。次に、ヤマト人吉営業所へファルトボートのピックアップ。順調。順調。昼食をとって買い出 し、焼酎を手に入れて準備は万端。いざ、川辺川上流、廻(めぐり)を目指す。さて、30分も走ると出艇ポイントに到着する。廻観音の境内から川が見おろせ る。強烈な瀬である。増水によってさらに恐ろしさを増している。これが噂の落ち込みのあと四方八方から水が中央の岩に集まっている撃沈覚悟の瀬。のはず が、その中央の岩さえ流れの中に隠れている。アナオソロシヤ。こんなのファルトの行くとこじゃありません。
観音橋のたもと左岸、つまり件の瀬の下を出艇ポイントとしたものの、増水のため、今日のキャンプ地をどこにするかが問題となった。インターネットか ら仕入れた情報では雨宮神社の辺りにテントが張れそうな河原があるはずなのだが、どうやら今日は水面下に隠れているようだ。クルマで両岸を行きつ戻りつ、 ファインディングするに、観音橋から出て二発目の瀬の下に河原を発見。今宵のしとねは、そこに定めることにする。ただこの間の二つの瀬の様子も、いつもと 違うみたいだ。一つ目は本流やや左を行くとして、つづく二つ目は、中央より入ってすぐさま右岸ぎりぎりのルートを辿って、瀬に突入、出口右岸にある岩を避 けて抜けるコースをとるしかなさそうだ。
観音橋の下にクルマを降ろすと、先客のワゴンがあった。艇を組み立てていると、その主が到着。上流からラフティングしてきたようだ。この水量はラフ トには垂涎ものだろう。顔は満面の笑みである。聞くと、地元でツーリングをやっている「ランドアース」さんだった。「ガイドツーリングですか?」と聞く と、頭をかきながら「いや、お客さんは乗ってないんですが、ま、練習みたいなもので・・」と。つまり居ても立ってもいられず漕ぎだしたというやつだ。

さて、下見に時間を取られた上、いつものように組立中の思わぬハプニングなどで、狭い船着き場に一艇ずつ降ろしてPFDを羽織ったら17時だった。 いつもの時間である。漕ぎ出していきなり急流への出艇となる。あとは、取り決めたように瀬を抜けて、エディーに入って河原に上陸するだけだ。球磨焼酎で気 合いを入れて出陣でござる。

水の力が強い。どんどん押されるように進んでいく。あっと言う間に一つ目の瀬を過ぎる。すぐ次の瀬へと吸い込まれていく。本来だったら取らないルー トだけに、どうなるか心配だったが、どうやら選択は正しかったようだ。気持ちのいい2.5級のスプラッシュを浴びて、目的地へ上陸。17時05分。本日の パドリングタイムは5分。以上終了。
夜。そろそろ球磨焼酎の酔いもまわってきた頃、「なんかヘンなものが光ってるでぇ。」と誰かが言った。いよいよ鬼火との遭遇かと思いきや、あにはか らんや、ホタルだ。確かにホタルだ。こんな季節だったっけ。いや、以前もう10年の昔になるが、わざわざ水上温泉にホタル狩りに行ったのは6月にはいって いたはずだ。南九州では、はや5月から舞い出すのか、それとも異常気象なのか、私には分からない。やがて、伴侶を見つけたホタルはひとつひとつと形を潜 め、ほんの一匹二匹がいつまでも、明滅を繰り返していた。23時。さてこちらもそろそろ就寝タイム。明日は、晴れますように。水が適量に戻りますように。


18日朝、出艇は9時45分ぐらい。水量はあまり減ってないし、青空も見えない。今日も景気づけの球磨焼酎が旨い。噂によると次の橋を過ぎた頃に3級の瀬 があるらしいが、もはや平時の情報は役にたたない。いよいよいきあたりばったりで乗り切るだけとなった。下見は不可能。あとは勘という運次第だ。しかし、 増水というのはおかしなもので、場合によってはややこしい瀬を普通の瀬にしてしまう。それと反対にちょっとした瀬を岩がらみのややこしい瀬にしてしまう。 川辺川の場合はまさしくそれで、かの3級の瀬は、パワーはあるものの何の障害も気にならないものになっていた。ただ、そのあとに2級の瀬がいくつか続くの だが、すべて岩が隠れていてルートが見定められない。ここは、ただ内なるフォースを頼りに(あるかないかは別にして)、流れの変化を読むしかない。
一個か二個の穴で済んで上出来だと思おう。そしていよいよ、川辺川は終わりへとさしかかる。球磨川の本流との合流地点が近づいてきた。11時45分、左岸 からコンクリート工場の騒音が響く最後の河原に上陸。昼食兼、川辺川への別れを告げることにする。やがて正午。工場は、昼休みに入るはずだ。あの音はウソ のように消えるだろう。果たせるかな、バーナーの準備ができると同時に正午のサイレンが鳴り、川面に本来の静寂が戻った。

いつものようにカップヌードルの昼食を終えると、しばらく探索に出る。鉄道がわたっているところが、球磨川との合流点のはずだ。噂によると、清流と 濁流がくっきりと分かれて合流する様が見えるらしい。が、これはどうやら、あの鉄橋の上からでないと見えないようだ。その他には小高い丘があるわけでもな い。うーむ。この歳になって「スタンドバイミー」するのも大変である。単線の鉄橋は細い。避難所はあるようだが、前から来るのか後ろから来るのかも分から ないのは、いかにも心許ない。
従って、その写真は撮れなかったのである。しかし、その様は、のちほど艇の上からでも充分に分かることになる。

再出発。丁度陽が射してきた。川に色が戻ってきた。清流であることは確かだ。ただ、もっと期待していただけに、これが本当に川辺川とは信じたくない ような、そしてそんな風に信じられないのが何だか申し訳ないような、妙な気分になったのだった。しかし、程なく訪れる合流で、川辺川の孤軍奮闘ぶりに敬意 をはらう瞬間がやってくる。球磨川は灰色の川だ。それを押し返すように流れをそそぎ込む。しかし、鉄橋を通過する頃には、もはや川辺川の面影はどこにもな い。薄緑色の全く別の川の旅が始まる。

ところが、実は、そんな感傷に浸っている暇はないのである。本流にはいると、いきなり3連発の瀬がやってくる。特に一発目はかなり高い波を受ける。 ドカンと水の壁を通っていく感じだ。顔を直撃するから、口を開けていたりしたら、しこたま水を飲むことになる。もちろん、先ほどより言っているようにこの 辺の水は決して美しくはない。はっきり言って、不味い。一気に球磨焼酎の酔いも醒めてしまった。

さて、ココまで来ると、もう人吉市街は目と鼻の先だ。しばらくトロ場が続くが、水量が多いから自然と流されていく。やがてたくさんの橋が見えてく る。いくつかのかわいい瀬を越えると、今日の目的地、中河原公園に到着。14時30分。余裕の到着。こんなにも時間が余るなんて、過去なかった話だ。 「じゃ、デポ車を回収して、温泉ってやつですかねぇ。その後は、地元料理ってやつですかねぇ。」と、欲望はどんどん膨らんでいく。人吉タクシー (0966-23-2525)に電話をかけると、「中河原公園ですね。二、三分でいきます」と返事が帰ってきたと思ったら、ホントに二分でやってきた。慌ただしい出発。廻まで、片道30分のドライブだ。
★★ここでワンポイント情報★★
ところで、人吉は温泉郷でもあるのだ。ぜひ観光ガイドを手に入れて温泉巡りなどしてみてはいかがだろう。日に焼けた肌を湯船に沈めたときのその 痛いことといったら、なかなかに自虐的快感である。マップは、観光課から送ってももらえるし、駅に行けば当然のことながら置いてある。我々が行ったのは、 「桃李温泉 石亭の館」の露天風呂。なんでも、湧き出している温泉は飲用しても効果があるという。入浴料は500円ぐらいだったような気がする。高台に なっていて、球磨川を見おろしながらの贅沢な昼風呂である。 そののち当然、食事となるのであるが、ドライフーズに飽きたという軟弱な御仁は、駅前通りにある「四季」さんという割烹がお奨めである。熊本と言ったら「馬刺」、それは当然としてこの「馬のレバー刺」は一体どう形容すればいいのだろう。「お客さん、運がいいよ。今入ってきたところだから」と言わ れて食べてみたが、まさしく運が良かったとしか言えない美味であった。またこれが球磨焼酎に合うときた日にゃ、あなた。もう、あれですわ。ホンマに。たま りまへん。★
うぃーっ、おやすみ。芝の上はなかなかに気持ちのいい寝心地である。

2002年5月17日
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