去年の夏、チーム全員が二日酔いというなか、はるばる出掛けた吉野川であった。しかし、上流大台ヶ原では、何故かここぞとばかりの大雨。スタート地点頭首 口の河原に降り立つも、農林水産省の監視所より即時撤退命令が出される始末。その後大迫ダムは放流を繰り返し、川は正真正銘の濁流に。結局、民営カルディ ア・キャンプ場にて野営、オートキャンパーたちと一夜を過ごすのであった。が、そのリベンジなのである、今回は。前置きが随分長くなったが、しかし、世の 中どこかで帳尻が合うものらしく、減水なのである。結論から言うと、星ふたつならぬ、穴ふたつ。ファルトにゃ、きつい川だったぜ。ふ~。

DATE | 天候 | 区間 |
2000/4/29 | 晴れ | 大淀-芝崎 |
2000/4/30 | 晴れのち小雨 | 芝崎-栄山寺 |
水質 | ★★ | まあ、こんなものでしょ。泳ぐわけでもないんだし。 |
水量 | ★★- | 地元パドラーに言わせれば、普段より20~30cm少ない。 |

なんとか天気がもちそうだ。ということで実に一年半ぶりの出艇。吉野川へ向かったのだった。午前8:00神戸出発。ゴールデンウィーク初日だけあっ て、西名阪の乗り口は大渋滞。柏原から五条までも優に一時間かかった。下流のポイント栄山寺にデポして、遡ること30分。買い出しを済まして河原に降りる と、ちょうどそこに正午のサイレンが響いてきた。
★★ここでワンポイント情報★★
意外に買い出しポイントがない、というより遠いのであった。もちろん、近隣のクルマで移動する分にはビッグなショッピングセンターもあるのだが、川から随分とはずれている。また、道がだいたい混んでいる。さっさと準備を済まして河原に行くべし。★

ビールと一緒に昼飯を食うと、とたんに気怠さがやってくる。久しぶりの艇の組立てと相まって、随分手間取ってしまった。結局のところ出発は14:00。いつものあんばいである。漕ぎだしてすぐ分かることだが川相は、相当荒々しい。水が少ないこともあって、普段は隠れている岩もかなり露出している。つまり、たとえ水があったとしても辿れるルートはだいたい決まっているということだ。

瀬になっているところには落ち込みが 絡んでいるところが多い。だいたい50センチぐらいだったが、もう少し水がある時は1メートルを超えるのかも知れない。関西屈指のカヌーゲレンデといわれ るのも分かるような気がする。いわゆるホワイトウォーター派の人気スポットか次々にやってくる。ただしファルトにゃスポットならぬ、「ずばっと」である。 下手をすると、素晴らしいアナがあく。だいたい通れる幅が狭いのである。出口、入り口の嫌な所に岩がある。そこを避けるとなると、だいたいこれも浅い岩が 待っている。おいおい。という気になのである。まったく。
漕ぎ出すとさっそくザラ瀬で艇に穴が開いた。わが愛艇は糟糠の妻のように、こうしてどんどんいとおしくも古びていくのである。瀬音が聞こえる度に、 偵察。見通しがきかないところが多い。しかし、だからといってこの偵察が有効に機能しているかといえば、そうではない。もちろんルートは分かる。しかしな がら、腹を擦る。瀬を終える度に、頭を横に振ることになる。「じゃ、さっきの偵察は何だったの?」と
5キロ地点。水面が視界から消えた。ヤナの登場であった。あるガイド本には、低いヤナなので、通り抜けられると書いてある。だから、そう思っていた。縄で結ったような低い柵状のものが、あるものとばかり思っていた。が、違う。これは、石を積み上げて作ったどちらかというと堰状のものである。確か に、低い。しかしそれは低い落ち込みであって、決して低い渡し縄ではない。ここで、分かったのである。そのガイド書は、ポリ艇を前提として書いている。つ まり「ああ、先が思いやられる」ぞと。
ヤナの手前でながながとフェリーグライドして、なんとか石積みの中でも比較的窪んでいて水量のあるところを見つける。石も丸まっこそうだ。そして、 しずしずと突入。グリグリっと、キールが音をたてた。また、パイプがゆがんだような予感がした。それが正しかったのは、翌日、フレームを解体したときに判明することとなる。

あと何度か腹を擦り、岸から倒れている竹に顔を殴られたりしながらしばらく行くと、前方から一艇のポリが遡ってくる。おやっと思っているとやがてカルディアキャンプ場が見えてきた。そこから出艇してきたのであろう。そして、キャンプ場前の瀬がやってくる。素直な瀬なので、そのままドーンと行く。飛沫があがる。そして、バーベキューで賑わう河原の前にデーンと出るという次第だ。
出艇して二時間半が過ぎた。キャンプ予定地は9キロ地点の芝崎河川公園。さあ、もう早くキャンプ地に行こう。そろそろ夕方。いつものような、あたふ た設営は今日こそはやめよう。とおもっていると、また前方から一艇のポリが遡ってくる。河川公園から来た艇だ。小さな瀬を越えると、巨大な岩がいくつも重 なっている小渓谷に入っていく。そこが目的地、芝崎であった。
渓谷に入るすぐ手前に上陸。泥濘地でちょっと気持ちは良くないが、仕方がない。そこから少し上った所、丸石の河原を本日のキャンプサイトとすることにした。雨の心配も、今夜は必要ない。大迫ダムだって、意味無く放水することはないだろう。
★★ここでワンポイント情報★★
芝崎河川公園は、駐車場もあり、昼間はバーベキューで賑わう。またちょうど落ち込みが重なるのでホワイトウォーター派のベース基地にもなってい る。比較的美しいトイレとゴミカゴとジュースの自動販売機があるのが有り難い。芝生があって寝心地も良さそうだが、河川公園内はキャンプ禁止ということに なっている。まぁ、河原から少し離れているし、ここまで荷物を揚げる労力の方がしんどいだろうなぁ。★
あっちこっちの河原を探してまわるも、流木があまりない。対岸から無理矢理巨大な倒木を艇のデッキに載せて運んできたが、のこぎりはない。あまり体 裁の良い焚き火とはならなかったが、一応火はついた。でも、無理でも焚き火をしておいて良かった。その夜は強烈に冷え込んだからである。焚き火の近くで やっと暖を取ることができた。天気が良い分、放射冷却もあるだろう。でも、吉野の桜は、下界より一ヶ月遅れて咲く。それがどういうことかというと、こういうことなのではあるまいか。

翌日は朝から、補修の時間。どうせ今日も穴が開くんだろうなぁと思いながら、パッチをあてる。まるでシーシュポスの神話である。結局撤収までに3時間ぐらいかかったのだろうか。出発にこぎ着けたのは11:00だった。
出発すると、すぐに大きな瀬がやってくる。芝崎公園には、3段の落ち込みがある。最初と二回目は、比較的素直な瀬であり、ど真ん中をコース取れば何 とかなるであろう。しかし、やっかいなのは3発目にやってくるヤツだ。というのも、瀬の途中で流れが急カーブしているからである。しかも、そのあともすぐ に進路を変えないと、正面の岩に激突という構造。いわばクランク状態になっている。

それでなくても重たいファルトである。だから、早めに動作に入ることになる。ところが先にも言ったように、水量が少ない上に、何らかの動きを取りた いところに限って、そこに必ずと言っていい程やっかいな岩がある。こうなると、何が起こるかというと、想像に難くないと思うが、いわゆる憂れし恥ずかしい乗り上げという事態を招いてしまうわけだ。
さて、いくつの座礁とゴツンを繰り返したのであろう。しかし、そのうち慣れていくのが人間なのであろうか。もうどうでもよくなった。偵察しても穴が 開く。偵察しなくても穴が開く。だったら、あなたはどちらを取りますか。八甲田山的に言えば、後者になる。で、後者になった哀れな私たちであった。
出艇して一時間後には、右岸に流れが当たっている嫌な瀬に遭遇。でも、ルートを見るほどのスペースもないので、そのまま突入。精魂使い果たしたわた くしめは、右岸の流れが当たる前のエディーに、取りあえず艇を擦り付けるようにしてイン。恰好悪いけども、そこから這い出るようにして瀬に再突入して脱出 したのであった。
一方、一気に瀬をクリアしようとした我が相棒は、右岸から少し離れた所を通過。そこに潜んでいた名も無き岩と逢い引き。美しくもかくも燃え立つような華々しい沈を遂げたのであった。(といいつつ、お見せできないのが残念であります。)
再び補修の時間とともに、昼食。河原のカップヌードルはどうして、こんなに美味しいんだろう。前もどっかで、使った台詞ではあるが、やっぱり旨いの は確かである。いつか、カップヌードル一年分が日清さんから送られてくるまで言い続けてみようと思う。「河原のカップヌードルは、めちゃくちゃ旨いでぇー。」と。
カップヌードルの匂いからか、それともじっと動かぬ我々を餌と思ってか、頭上にやけにたくさんのトンビやタカが舞うようになってきた。さあさあ長居は無用。(ほんとは、だらだらと長居するのが川旅であると思っている。しかし、行程は、行程。悲しい社会人の性ではある。)

ようやくややこしい瀬も少なくなり、流れ行くと、そこに薄紅色の山肌が見えてきた。これだって、下千本から(ちょっとばかり?)距離はあるものの、立派な吉野の桜だ。
願わくば
花の下にて春死なん
その如月の望月の頃
なんて言っていると、岸壁に激突、沈。ってことにもなりかねない。いかんいかんと、思って気を引き締めるといきなり浅瀬に入って座礁した。なんじゃ、こりゃ?もう。おい。

旅はしずしずと終焉を迎えようとしている。あと一時間も残っていない水上生活である。ここを訪れた時間とて、のべにしても一日に足りない。そのよこを何に使われたモノなのか?少なくとも我が年齢よりも年を重ねた建造物というか廃墟というかが過ぎていく。

右岸に高みに道路らしきものが見えてくると、そこはもう国民宿舎・緑水苑のすぐ袂まで来たということである。ここは、モンベル・アウトドア・チャレンジのゲレンデ。川面には色とりどりのカヤックがあらわれる。さすがに指導員は慣れたもので、我々が近づくと、講習を止めて通してくれる。ファルト派をちゃんと生徒たちに説明をしている。
曰く、「あの舟は、安定しているので、皆さんのようにヘルメットをしていなくてもいいのです」と。ま、そうなんですが、そうとも言えない旅をしてきているなぁと思いつつ、カヌースクールの横を通り過ぎていった。
そういえば、以前ダムの大放水があったときには、この先の上陸地点のトロ場でモンベルの社長・辰野さんが新艇の試乗をしていたのを見かけた。ちょう ど、ファルホークからアルフェックに変わる頃だった。それをしげしげ見ていた我々は、ちょっとばかり微妙な目で見られてしまった。あんまり他意はないし、 お話したかったんだけどなぁ…。
さて、栄山寺橋をくぐる。いよいよ終点である。しかしここに来て、腹立たしい。旅の最後に腹立たしいのは、やっぱりつらい。というか、憎悪である。嘔吐である。
ジェットスキーである。うるさい。波が立つ。川を汚す最低野郎。最低、最低、最低。モンベルのカヌー教室領域に入ろうとするというか、嫌がらせ的に 近づくクソバカもいる。最低。最低。最低。「えっ?最低の意味が分からない」ですって?。じや、ま、そんなおバカなあなたとは「きちがいピエロ」でも観て、そのあとでお話しましょう。
上陸ポイントは、それでなくても狭いところなのに、ジエットスキー用の台車がズデデデーンと置いてある。それも、二つも三つも、置いてある。 「ねぇ、教えてよ。あなたたちは、長良川とか、四国三郎吉野川とか、琵琶湖とか、そこを何だと思ってるの?」「水がたまっていて遊べるから、好きなのかい?たった、それだけのことで好きなのかい?」
悲しい上陸であった。そのうえ、小雨まで降り始めた。ファルトは、乾かない。そして、ボクの心も乾かない。久しぶりの川だったのに……..。せっかく、久しぶりの川だったのに……..。

2000年4月29日
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